おいしさはミネラルウォーターに迫る? 東京の水道水 その進化と水質維持の舞台裏

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おいしさはミネラルウォーターに迫る? 東京の水道水 その進化と水質維持の舞台裏

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ミネラルウォーターのおいしさに近づいてきた東京の水道水。そのおいしさの裏には、東京都水道による長年の努力がありました。知られざる水道水の水源にも迫ります。

おいしさの進化、ミネラルウォーターレベルに

 東京の水道水がおいしくなっています。東京都水道局(新宿区西新宿)が毎年開催している「東京水飲み比べキャンペーン」の最新結果(2017年度)によると、東京の水道水がおいしいと答えた人は全体の約60%に上り、同キャンペーンで過去最高を記録しました。

東京の水道水は、イベントなどの場で年々評価が高まっている。写真はイメージ(画像:写真AC)



「東京水飲み比べキャンペーン」は、キャンペーンの来場者が水道水とミネラルウォーターをブラインドで飲み比べた結果を投票するというもので、これまで計79回行われてきました。

高度浄水処理された水道水をボトルに詰めた「東京水」。都内各所で販売されている(2018年7月26日、ULM編集部撮影)
過去3年間の「東京水飲み比べキャンペーン」のデータ推移。縦軸はパーセント(ULM編集部作製)

 2017年度は、3万613人が「水道水の方がおいしい」「どちらもおいしい」「ミネラルウォータの方がおいしい」の3択で回答。結果は「水道水の方がおいしい」が39.1%で、「ミネラルウォータの方がおいしい」の41.0%に迫る結果に。「どちらもおいしい」も19.8%あり、「水道水の方がおいしい」と「どちらもおいしい」を足すと約60%になりました。

気になる臭いを除去する、2つの処理

 なぜ東京の水道水はおいしくなったのでしょうか。その背景には「高度浄水処理」と呼ばれる、浄水技術の進化があったのです。

「高度浄水処理」の内容は各自治体によって異なりますが、東京都の場合は「オゾン処理」と「生物活性炭吸着処理」という、ふたつの処理を指しています。

「他事業体や海外から(ふたつの処理の効果が)報告されたため、東京都においても実験を行い、効果を検証したのち導入しました」(東京都水道局)

一般的な「高度浄水処理」の仕組み(画像:東京都水道局)

「オゾン処理」と「生物活性炭吸着処理」を導入した効果は大きく、これまで通常の浄水処理(沈殿ろ過方式)では十分に対応できなかった、かび臭さの原因「2-メチルイソボルネオール」と、カルキ臭さの原因「アンモニア態窒素」を完全に除去することができるようになったのです。

国の基準よりも厳しい目標値を掲げる

おいしさに関する水質指標(画像:東京都水道局)

 東京都水道局ではかねてより、処理後の水質に関して、国が定めた目標よりも厳しい独自の目標値を定めていました(上図の右端項目)。この目標値を満たすと「ほとんどの人が匂いを感じることがないレベル」(同局)の水質になるといいます。
 
「高度浄水処理」導入の現在では、この目標の一部を満たすまでになりました。水質の向上を図るために、東京都内131か所に自動水質計器を設置し、水質を24時間で監視しているといいます。

21年かけて「高度浄水100%」を達成

 東京へ水道水を供給する浄水場に「高度浄水処理」が初めて導入されたのは、1992(平成4)年6月のことで、場所は金町浄水場(葛飾区)でした(1期)。

 その後、三郷浄水場(埼玉県三郷市)、朝霞浄水場(埼玉県朝霞市)、三園浄水場(板橋区三園)、東村山浄水場(東村山市)の計5つの浄水場に、既存の浄水業務と並行しながら、計21年という長い年月をかけて、少しずつ導入されていきました。

 2013(平成25)年10月、これらの浄水場が水道水を供給する地域でついに、高度浄水100%を達成したのです。

「高度浄水処理」の導入経緯(画像:東京都水道局)

 しかし、東京に水道水を供給しているのは、この5つの浄水場だけではありません。そのほかにも、小作浄水場(羽村市小作台)、境浄水場(武蔵野市関前)、砧浄水場(世田谷区喜多見)、砧下浄水場(同区鎌田)、玉川浄水場(同区玉川田園調布。現在休止中)、長沢浄水場(川崎市多摩区)、杉並浄水場(杉並区善福寺)の7つの浄水場があります。

 これらの浄水場は「高度浄水処理」を行っていません。小作浄水場から長沢浄水場までの6つの浄水場では通常の浄水処理(沈殿ろ過方式)を、杉並浄水場では消毒処理のみを導入しています。

 しかし心配はご無用。これらの浄水場で使っている原水が良好なため、「高度浄水処理」が必要ないのです。2017年3月末時点での、東京都内の水道水の供給状況は、次のとおりです。

高度浄水の供給区域(画像:東京都水道局)

 この図を見れば、東京都民が現在飲んでいる水道水の種類が分かります。ちなみに武蔵野市や昭島市、羽村市、檜原村は地下水などを使って独自の水道事業を行っているため、「その他」の扱いとなっています。

東京の水道水は、ほとんどが河川の水

 ここで疑問が。これまで紹介した浄水場はそもそも、どの場所を流れる水を使っているのでしょうか。

 このことを知るためには、「水系」について学ぶ必要があります。水系とは、本流となる川とそれに合流したり、分岐したりする川、湖、沼などの集まりのこと。例えば「A水系」という場合、Aという川(本流)に合流したり、分岐したりする川、湖、沼などの集まりを意味します。

東京の水道水源と浄水場別給水区域(画像:東京都水道局)

 東京の水道水の原水が流れているのは、次の水系からとなっています。

・利根川/荒川水系
・多摩川水系
・相模川水系
・地下水

 東京都で使われる水道水の水源のほとんどは川の水。そして、そのなかでも利根川/荒川水系が78%と圧倒的で、多摩川水系が19%、その他が3%とわずかです。

 その圧倒的な利根川/荒川水系からの水を浄水しているのが、始めに紹介した「高度浄水処理」を導入した浄水場(金町、三郷、朝霞、三園、東村山)なのです。

 これらの浄水場に「高度浄水処理」が導入されたのは、「利根川水系の中川・江戸川上流水域で発生する年間水質変動と、季節的な水量低下に伴い、水源としての江戸川の富栄養化によって発生する『かび臭問題』の対策」(東京都地質調査業協会レポート)といった課題があったためでした。

2008年当時の高度浄水処理の供給区域(画像:東京都水道局)

 ちなみに、多摩川水系の水は、通常の浄水処理(沈殿ろ過方式)を採用している浄水場(小作、境、砧、砧下、玉川)が、相模川水系の水は長沢浄水場が、地下水は杉並浄水場が浄水しています(前述の武蔵野市や昭島市、羽村市などを除く)。

地震に強い水道管への変更も

 これまで東京の浄水場と水系について説明してきましたが、最後に災害対策はどうなっているのでしょうか。

 東京都水道局では、1995(平成7)年の阪神・淡路大震災、2011(平成23)年の東日本大震災の発生による水道施設の被害を受けて、水道管の「耐震継手(つぎて)化」を進めているといいます。

画像左は水道管路の取り換え工事の様子。右は耐震継手管のイメージ図(画像:東京都水道局)

 継手とはこの場合、水道管と水道管との結合方法のこと。「耐震継手化」では、過去の震災被害で見られた管路の「抜け出し」を防止するために、それを防止する機能を持った水道管への変更作業を行っているのです。

 普段何気なく飲んでいる東京の水道水ですが、おいしさとその維持には、表からは見えないさまざまな努力があったのです。そんなことを想像しながら水道水を飲めば、もしかするともっとおいしく感じるかもしれませんね。

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