カイコ、コオロギ、蜂の子……地球に優しい「昆虫食」 記者が怖々食べてみた

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カイコ、コオロギ、蜂の子……地球に優しい「昆虫食」 記者が怖々食べてみた

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2013年に国連食糧農業機関が昆虫食を持続可能な食料として推奨することを発表。以来、世界的に昆虫食への注目度が高まっています。日本でも関連書籍や報道を目にすることが増えていますが、栄養価やおいしさはどうなのでしょうか。実際に昆虫食を食べてみました。

神保町の書店が昆虫食と関連本を一緒に販売

 FAO(国連食糧農業機関)が2013(平成25)年5月に発表した報告書で、昆虫食を「持続可能な食料」として推奨することが記され、世界的に昆虫食への注目が高まりました。日本でも近年、関連した報道を目にすることが増えています。

国産の昆虫食「コオロギ100匹が練り込まれたうどん」(画像:アール・オー・エヌ)



 神保町にある書店「書泉グランデ」5階に昆虫食に関連する本を集めた特設コーナーがあります。ユニークなのは、そこで昆虫食も一緒に売られていること。スナック菓子やクッキング用のもの、乾麺などさまざまです。

 フロア担当者に、昆虫食の売れ行きについて聞いてみると、「(2019年)3月末に販売を開始して以来、日にちが経つにつれ認知度が上がり、売れ行きが良いです」との答えでした。

 購入者は、若い女性と中年以降の男性が多いとのこと。フロアにきて最初に昆虫食のコーナーで足を止める人も少なくないそうです。

「特に手をだしずらいと思われた、サソリの昆虫食から売れていったのが印象的でした」(担当者)

 また、実際に売り場の昆虫食を試食したなかで、「コオロギ100匹が練り込まれたうどん」を一押しに挙げ、「色味がそばっぽいのですが、味は普通にうどんでおいしくいただけました」とコメント。

「コオロギ100匹が練り込まれたうどん」の販売元であるアール・オー・エヌ(埼玉県戸田市)は同商品のほか、英国の昆虫食ブランド「EAT GRAB」の商品を取り扱っています。輸入を開始したのは、2019年3月とのこと。英国の大手デパートでも取り扱われるようになり、注目が高まったのをその背景に挙げます。

「コオロギ100匹が練り込まれたうどん」は、コオロギの粉をタイから輸入し、日本で麺に練りこんで作った国産の昆虫食です。パッケージの外側に、薬味として、そのままの形の「姿コオロギ」が付いているのに、思わず笑ってしまいました。

 同商品に加えて、アール・オー・エヌより「スナック菓子になっていて食べやすい」と勧められた3種類の味付けローストコオロギを取り寄せて食べてみることにしました。

ビールのつまみになる? 昆虫のスナック菓子を食べてみた

 まずは乾麺の「コオロギ100匹が練り込まれたうどん」を茹でて試食。ひと口目は、薬味を付けずにうどんだけを味わってみました。コオロギの風味(というべきか?)が新感覚でしたが、うどん自体はコシがあって喉越のいい印象。

 次に、生姜やネギなどの薬味と一緒に食べると、普通のうどん感覚で食べることができました。さらに食べ進めるうちに、最初は違和感のあった独特の風味に慣れてきて、おいしく味わえました。「姿コオロギ」の薬味は、コオロギ風味が強くなりそうで使わず。これは、昆虫食の味わいを深めたい人向きかもしれません。

 次に、ローストしたコオロギのスナック菓子を3種類、恐る恐る食べてみました。羽や足は取り除いてありますが姿はある程度残っていて、小粒です。

コオロギのスナック菓子(画像:アール・オー・エヌ)



「スモーキー バーベキュー(SMOKY BBQ)」は、その名のごとくバーベキューソースの風味が強くサクサクとした食感のため、コオロギと知らずに食べると、抵抗がないかもしれません。コオロギとわかっていると、ちょっとした苦味や臭み、口の中に残る細かなクズに「昆虫食」を感じるのではないでしょうか。

「ペリ-ペリ(PERI-PERI)」は、唐辛子風味。ピリッとした辛さが際立ち、ヒリヒリとした余韻が長く口の中に残るため、スモーキー バーベキューに感じたコオロギ独特の風味があまり感じられませんでした。暑い国でビールが進みそうな味わいです。

 3つめの「スイート チリ&ライム(SWEET CHILLI & LIME)」は、甘みがあるのとライムの爽やかさ、塩味がいい具合で、一番食べやすく感じました。楽しみ方の紹介写真では、白ワインと合わせていました。

 クッキング用の昆虫食に、ミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)やバッタの姿そのままの商品もあります。英国の昆虫食研究家による、ミールワームを使ったスープやサラダなどの料理写真をみると、おいしそうにも見えるものもありますが、グロテスクに見えるものも。

 パッケージ裏に、高タンパクや食物繊維が豊富であることが書かれてはいますが、相当数食べないことには摂取量は知れていて、敢えて昆虫を使う必要性を疑問に思う人もいることでしょう。

FAOが昆虫食を推奨するワケとは?

 2019年1月に出版された『昆虫は上手い!』(新潮社)の著者、内山昭一さんがこの5月に「昆虫の栄養について考える」をテーマに講演を行いました。内山さんは、昆虫料理研究家として長年昆虫食について研究。昆虫料理研究会の代表も務めており、著書や新聞、雑誌での執筆に加えてテレビ・ラジオなどにも多数出演するなど幅広く活躍し、昆虫食の普及に努めています。

 昨年、アメリカで昆虫の栄養価についての調査結果をまとめた本が出版されたそうで、内山さんはその内容と共に栄養素について講話。昆虫の実食も行いました。

「EAT GRUB」のコオロギの粉(画像:アール・オー・エヌ)



 調査によると、家畜と昆虫における100gあたりのたんぱく質の割合は、豚の肩ロースが72%、牛肉の肩ロースが56%、鶏の胸肉(胸皮つき)が52%に対して、イナゴが76.8%、コオロギが64%、ミールワームが48%、トノサマバッタが67%。脂肪については、同部位で豚が24%、牛肉が41%、鶏肉が46%に対して、イナゴが5.5%、コオロギが20%、ミールワームが35%、トノサマバッタが21%とのこと。

 たんぱく質は昆虫によってバラツキがありますが、概して家畜と同程度。脂肪は家畜と比べて少なめです。脂肪には旨味成分が多く含まれるため、少ないものは旨味も少ないといえます。小さな昆虫を100g食べるというのは相当量で、家畜100gを食べる方が簡単にたんぱく質を摂取でき、おいしく食べることもできます。

 FAOが昆虫食を推奨する理由はどういったところにあるのでしょうか。

 EAT GRABの報道用資料によると、可食部1kgの生産環境について家畜とコオロギでみてみると、必要な農地は、牛が200平方メートル、豚が50平方メートル、鶏が45平方メートル、コオロギが15平方メートル。

 必要な水は、牛が2万2000リットル、豚が3500リットル、鶏肉が2300リットル、コオロギが1リットル。飼料は牛が10キログラム、豚が5キログラム、鶏が2500グラム、コオロギが1700グラムです。コオロギの飼育効率の良さがわかります。

内山さんが昆虫食を広めるワケのひとつは「おいしさ」

 また内山さんによると、FAOの報告書には、動物性たんぱく質の価格上昇、肥育において昆虫は家畜より温室効果ガスの放出量が少ない、可食部率が大きい、有機廃棄物で飼育できる等々、エコな食材となりうることが指摘されているそうです。また、口蹄疫やインフルエンザといった感染症のリスクが少ないなど、持続可能な食材となりうる環境的優位性の要素が多数あるのです。

 そのため昆虫をおいしく食べる方法やレシピを開発する人たちが増え、新しいビジネスチャンスや雇用が生まれる可能性も含めて注目が集まっているというのが現状。しかしその一方で、内山さんは自分が昆虫を食べるのは「おいしいことが一番の理由」と言います。

講演で実食した昆虫。手前が蜂の子、左がイナゴ、右がカイコ(画像:アール・オー・エヌ)



 内山さんは、長野県で育った子供の頃から昆虫を好んで食べていたそうです。講演では、昆虫の姿のままで試食が色々出てきました。おいしかったものもあれば、目を瞑って食べて飲み込むのに苦労したものまで色々。このディープさに比べると、コオロギのスナック菓子は手始めに食べてみるにはいい具合に加工されていると思いました。

 内山さんは食糧自給率の低い日本において、昆虫食はその向上に繋がることも普及活動の理由に挙げます。昆虫食は、内山さんのように食べ慣れていないと、馴染めない人が多いことでしょう。しかし今後、高タンパク低脂肪というだけでなく、ビタミンなどさらなる栄養素の解明や、調理方法の研究が進むなかで味わいも進化し、次世代の持続可能な食材となっていくことは考えられます。

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