ランタンに「アートな渋谷」が灯る! 渋谷マークシティ1階、気鋭のデザイナーユニットが語る「仕掛け」とは

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ランタンに「アートな渋谷」が灯る! 渋谷マークシティ1階、気鋭のデザイナーユニットが語る「仕掛け」とは

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渋谷マークシティのランタンディスプレイに、コンテンポラリーデザインスタジオ we+の作品が展示されています。制作した同スタジオのデザイナー、林さんと青木さんに作品についての話を聞きました。

ランタンのなかに渋谷の象徴、忠犬ハチ公やモヤイ像も

 渋谷マークシティ(渋谷区道玄坂)1階のエスカレーター横にある、巨大なランタン型のディスプレイ。待ち合わせスポットとして利用している人も多いことでしょう。屋外メディアとして、企業広告のラッピングや商品展示ほか、多岐にわたるディスプレイが展開されています。

ランタンのwe+のディスプレイ(2019年6月4日、宮崎佳代子撮影)



 2019年6月4日(火)より、このランタンにコンテンポラリーデザインスタジオ「we+(ウィープラス)」の作品が展示されています。we+は多岐にわたる領域のディレクションとデザインが高く評価されているデザインユニットです。銀座の冬の風物詩であるMIKIMOTOのクリスマスツリーや、資生堂本社のウィンドウディスプレイなどを手がけるほか、海外でも活躍の場を広げています。

 今回、ランタンディスプレイを担当したのは、同スタジオの林登志也さんと青木陽平さん。ふたりに話を聞きました。

 待ち合わせは、作品展示初日のランタン前。渋谷の街をテーマにした作品と聞いていたので、パステルカラーのディスプレイを目にした瞬間、意表を突かれた感があり、とても新鮮に思えました。渋谷にワクワクした気分で訪れる人たちの、心ときめく色合いを表現したかのよう。

 高層ビルやバス停、忠犬ハチ公にモヤイ像、楽しそうに語らい合うカップルやカメラを首からかけた人、風を切るように足早に歩く人。日常の渋谷で目にする象徴的なものがランタンのなかに散りばめられています。

 ひとつひとつのパーツを眺めながら、これが渋谷の何を表しているのかを考えたり、360度ぐるりと回って作品の表情の変化を見たり。思わずその世界観に没入してしまう、楽しい作品でした。

 ランタン前にやってきた林さんと青木さんに、ディスプレイを一見した際に目を引いた存在、バスの運転手の正体について聞きました。車体に対して比率が大きく、インパクトがある分、ずっと気にかかっていました。

作品制作におけるふたつの苦心

 バスの運転手の正体は、東京メトロの車内ポスターに出没している、ジャムの妖精のキャラクター「ジャムム」が正解でした。

「ランタンのなかに5匹のジャムムがいるので、探してみてください。カメラを首からかけた人が、撮ったジャムムを液晶モニターで確認しているなど、ストーリーを忍ばせているのもこの作品の仕掛けです」(林さん)

 見る人それぞれの解釈でストーリーを楽しんでもらいたいといいます。

正面から見たランタンディスプレイ(2019年6月4日、宮崎佳代子撮影)



 ふたりに今回の作品で最も苦心した点を聞くと、青木さんは色を決めていく作業を挙げました。当初、色は白一色にするアイデアや、白と黒のツートン、シルエットだけといった案が出たそうです。

「でもそこから不要な要素を、我々の作品作りに多い『削ぎ落としていく』方向で突き詰めていくと、人を寄せ付けないような(無機質な)雰囲気になってしまって。それでは街ゆく人々の興味を惹くことはできないので、パッと目につくような色の組み合わせを決めていく作業が大変でした」(青木さん)

 一方、林さんは苦心した点に、360度どこから見てもディスプレイとして成立するデザインを考えなくてはいけなかったことを挙げました。

 通常のウィンドウディスプレイは背面があるのですが、ランタンにはありません。そこで、放射状に3つのエリアに分けて作品を制作。ハチ公像のある辺りから見た渋谷の街、モヤイ像のある西口バスターミナル付近、代々木方面の緑ある佇まい。その3か所をイメージしたそうです。

「建物や人の重なり具合を、どの角度から見ても絵になるよう見せるのはたやすいことではありませんでした。でもそれが、この作品に多様性を与えていて、正面はあるのですが、みなさんに自分の好きな作品の角度を見つけて欲しいですね」(林さん)

 ちなみに、エリアのひとつに代々木方面を取り入れたことについて林さんは、「渋谷駅周辺は緑が少ないので、緑が増えて欲しいなぁという想いもこめています」と笑みを浮かべてコメントしていました。

夜のランタンにも楽しい発見が色々

 作品は、2.1ミリ厚の板で制作されています。窓や顔を作るために、ある部分は大胆に、あるものは繊細に板をくり抜いていて、奥が見えるため抜け感があり、作品の広がりも感じられます。青木さんは、隙間からランタン外の人々が行き交うリアルな渋谷が垣間見られるのも、作品のポイントのひとつに挙げます。

渋谷を訪れたカップルが、楽しげに語り合う声が今にも聞こえてきそう(2019年6月4日、宮崎佳代子撮影)



「夜は夜で、照明によって色がさらに引き立って見えて、違った表情や雰囲気を楽しめますよ」とのふたりの言葉に、日が暮れてから再訪してみました。夜のランタンは、渋谷マークシティーの照明や、店舗のネオンが点滅する煌びやかさとは対照的に、優しさを湛えて浮かび上がっていました。

 写真を撮ろうと、ファインダーを覗きながら作品を部分的に切り取っていくと、雑多な街並みのなかに配置された人々に、まるで生きているかのような躍動感を覚えました。巧みなレイヤー構造(複数の層を重ねる)から得られる臨場感、ランタンの外の風景が中の景色に同化して見える様子、頭から足先まで表現の細やかな人々。そこから、さまざまなストーリーが見えてきます。

「今後、季節感を加えたいと思っています。ハロウィーンならジャムムがかぼちゃを被っているとか」と言って林さんは一笑。今回の展示は6月24日(金)までとしていますが、季節を変えて再び展示される予定だそうです。

 ランタンのなかに灯る小さな渋谷の物語。昼に夜に、訪れる毎に、異なるストーリーを感じさせてくれることでしょう。

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