飛び交うコール、揺れるペンライト 2.5次元の「熱狂」が女子大生を導く場所とは

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飛び交うコール、揺れるペンライト 2.5次元の「熱狂」が女子大生を導く場所とは

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岡部大介

東京都市大学社会メディア学科教授

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2010年から右肩上がりで成長し、勢いを見せる「2.5次元ミュージカル」市場。そんな2.5次元ミュージカルのライブ映像をカラオケボックスで上映し、楽しむ女子大生たちがいるといいます。いったいなぜでしょうか。

ライブと異なる「上映会」という場

 2.5次元ミュージカルで活躍する若手俳優を応援するファンたちは、とても忙しく活動しています。2.5次元ミュージカルとは、マンガやアニメなどの2次元の作品を、生身の俳優が3次元として演じる舞台演劇です。最も有名な『ミュージカル テニスの王子様』(通称・テニミュ)は、若手俳優の歌とダンスを楽しむことができる作品です。

色鮮やかなペンライト(画像:写真AC)



 舞台やライブだけではありません。ファンは「推し」俳優との握手会や、彼らとのハイタッチを楽しむ接触イベントにも足を運びます。推しとは「推しメン」の略で、自身の「応援メンバー」「好きなメンバー」を指します。

 さらに、舞台とライブはCDやDVDなどに収録されるため、自身の推しが登場していれば買わざるを得ません。ファンたちは自宅で何度も繰り返しライブ映像を見て、都合があえば、気心の知れた2~3人のファン友だちと集まり、「上映会」を行うこともあります。

 俳優を応援するため、上映会を企画する大学生も少なくありません。私の研究室の女子学生からその話を聞いたとき、私は「できるだけたくさんのライブ映像を見るために、DVDを分担して買って持ち寄るのかな」とぼんやり考えていました。大学生のお財布事情を考えると経済的だからです。

 しかし実際、ファンたちはそれぞれにライブDVDを買い、見てから上映会に臨むとのこと。

「何度も見たライブ映像なのに、なんで上映会を開催するの?」
「なにが楽しいの?」

という疑問が湧いてきます。そこで、研究室の学生にお願いし、上映会の様子を撮影してもらいました。

カラオケボックスで大盛り上がり

「上映会」の様子を見ていると、DVD鑑賞ができるカラオケボックスの室内で、ペンライトを上下に振りながら、映像に向かって声援を送っている彼女たちの姿に目がいきました。室内には壁2面全面に投影できる「デュアルプロジェクター」が設置されているため、上映会にはうってつけのようです。

 彼女たちふたりがペンライトを振りながら声援(コール)を送っていたライブ映像は『HAND SOME FESTIVAL 2016』でした。若手俳優25人が登場する約2時間半のファン感謝ライブで、ふたりの推しである小関裕太さんが登場しています。小関裕太さんは「テニミュ」で活躍し、最近ではNHKの朝の連続ドラマにも出演していました。ちなみに彼女たちはこのライブを実際に「生」で観ており、ふたりともライブDVDを購入しています。

 自宅においてひとりでライブ映像を見るときは、推しの「登場シーン」以外を早送りすることが多いそうです。一方上映会では、2時間半のライブ映像を早送りすることなく再生するとのこと。すべての上映会が同様ではないでしょうが、相当の時間が必要なようです。

 生の舞台やライブで、ファンたちの視線はステージに釘付けになります。そのため、友だちと一緒にライブに行っても、公演途中で俳優たちのパフォーマンスについて感想を言い合ったり、気持ちの高ぶりを共有したりすることは困難です。会場の爆音や歓声でもみ消されてしまうからです。

シンクロする声援と動作

 一方上映会は、感動を共有することができます。あらかじめ自宅でライブ映像を何度も見て、頭に入っているため、上映会では推しの登場シーンとパフォーマンスに向けてスタンバイできます。そして、いざ推しのパフォーマンスがはじまると、彼女たちは顔を見合わせて喜びを共有します。上映会の楽しみのひとつは、推しへの感情表現をシンクロさせる点にありそうです。

カラオケでの「上映会」で盛り上がるイメージ(画像:写真AC)



 しかし興味深いことに、2時間半のライブのうち、彼女たちの推しが主たるボーカルとなる楽曲はわずか2分半しかありません。ライブの出演者は25人もいるので当然かもしれません。2時間以上もの、推しが「前に出てこないシーン」をどのように過ごすか、この点が上映会の面白さを理解する上で、もうひとつのキモとなりそうです。

 推しがあまり前に出てこないシーンでは、ほとんど打ち合わせなく、ふたりの声援や動作が「即興的」にシンクロする現象が見られます。例えば、俳優の青柳塁斗(るいと)さんの登場シーンを目にして、どちらかが「るーいーと!るーいーと!」とコールを発して推し始めると、もうひとりもほんのわずかに遅れ、「(るー)いーと!るーいーと!」と瞬時にコールを重ねます。このとき、ふたりのペンライトの上下動もぴったりシンクロします。

 また俳優の動作に対して、どちらかが「かわいいー!」と反応すると、その声援に誘われるように、もうひとりも「(か)わいいー!」と声を添わせます。まるで、声援やペンライトの動きを通して、いま一緒に推すべき俳優を「提案」し、それを瞬時に「承認」しているかのようです。

 先述のように、いつもは早送りするシーンであるため、次に何が起きるのか確かな予測がつきません。そのためふたりの声援や動作にはわずかなズレがあるものの、うまいこと帳尻が合いつつ、声と身体のシンクロが起きていました。このように推し以外のシーンでは、声援や動作をなんとか即興的にシンクロさせ、気持ちを高ぶらせるポイントをふたりで創造していくことになります。

「るーいーと!」のようなコールや「かわいいー!」という声援は、DVDの若手俳優に投げられているだけではなく、ファン友だちと感情をシンクロさせるために用いられているのです。

 予測可能な感情の高ぶりと、打ち合わせもないままに生じる 即興的な声援や動作、これらをシンクロさせて共有できることが、複数人で集まる上映会ならではの楽しさのようです。

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