見慣れた東京を異国のように「旅」する。“もう一つの東京”に出会う観光アプリ『東京ヘテロトピア』とは?

  • ライフ
  • 中づり掲載特集
見慣れた東京を異国のように「旅」する。“もう一つの東京”に出会う観光アプリ『東京ヘテロトピア』とは?

\ この記事を書いた人 /

アーバンライフ東京編集部のプロフィール画像

アーバンライフ東京編集部

編集部

ライターページへ

「ありきたりな観光ガイドはあきた」という人におすすめなのが、 演劇ユニット「Port B(ポルト・ビー)」のプロジェクトから生まれた観光アプリ『東京ヘテロトピア』。アプリを片手に寄り道をすれば、見慣れた風景のすきまに”もう一つの東京”が見つかるかもしれません。その誕生の背景について「Port B」主宰の高山明さんにお話を伺いました。

新しくなった『東京ヘテロトピア』で、“アジア都市”東京を旅しよう

「東京へテロトピア」のアプリ画面



 『東京ヘテロトピア』は、単なる観光ガイドとはひと味違う、“東京の中のアジア”を旅するアプリ。劇場、宗教施設、モニュメント、難民収容施設跡地、留学生寮、エスニックレストラン、動物園…。地図を頼りにスポットにたどり着くと、かつてその場所に生きたアジアの人々の物語が再生される。見慣れたはずの東京を異国のように「旅」する中で、無数の偶然が起き、私たちは自分だけの出会いを重ねていく――。

 「ヘテロトピア」とは哲学者ミシェル・フーコーの言葉で、「異在郷」や「混在郷」のこと。現実に存在しない「ユートピア」(理想郷)とは異なり、現実に存在する“他なる場所”を指します。

 そのはじまりは、2013 年の舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー13」で初演された「Port B」による“旅の演劇”『東京ヘテロトピア』。観客はラジオとガイドブックを持って街を歩き、“東京の中のアジア”13カ所を旅しました。

 その後2015 年にはiPhone版の観光アプリとして展開され、スポットも20カ所に拡大。コロナ禍で一時休止していましたが、ようやく2023年5月より“東京の魅力再発見メディア”「アーバン ライフ メトロ」とコラボして再始動が決定。交通メディアと連携しパワーアップを図ると同時に、Android版や英語版の展開、新たなスポットが随時増えていくことも発表され、話題を集めています。

 

作家たちがつづる物語に導かれ、”もう一つの東京”に出会う。

 そんなユニークな“旅の演劇”『東京ヘテロトピア』。13年の初演以降もプロジェクトは続き、台北やアブダビ、リガ、ベイルート、アテネ、フランクフルトなど世界各地で展開されてきました。その誕生の背景について、「Port B」主宰の演出家でアーティストの高山明さんは以下のように話してくれました。

「『東京ヘテロトピア』は、場所や時間、人、文化、空間などが混じり合う“他なる場所”を旅するための演劇です。東京には海外から来たものが多くありますが、目立つのは欧米のもので、実は私たちが見えていないアジアの足跡が無数にある。人間は遠くにあるものを見ようとしますが、逆に身近のものは知ったつもりで見えないことも多い。だからこそ、東京の異世界というべき“アジア”を巡る観光演劇を作りたいと考えました」(高山さん)
 

スポットのガイドに加えて、文章に加えて朗読もセットになっている)

 『東京ヘテロトピア』の大きな特徴が、物語(テキスト)と朗読がセットになっていること。9人の詩人・小説家らがつづるのは、留学や移民・難民として東京を訪れたアジアの人々にまつわるリサーチをもとに発想した、“その場所でありえたかもしれない物語”。朗読は主に外国人によるもので、利用者は時を超えた物語を聞きながら、自由に想像を膨らませます。

「人は“今ここ”のリアルな場を体験するとき、それぞれの頭の中にある過去の時間に向き合っています。僕にとって、そうした記憶のレイヤーを引き出してくれるのが『声』。声は目に見えるものよりも想像力を無限にかきたてる存在で、普段聞こえない声はさまざまな記憶を引き出すトリガーになる。言い換えれば、リアルな場と自分の体が感じること、頭の中で起きていることが出会う場が、『ヘテロトピア』と言えます」(高山さん)
 

 これまでも、世界各地のマクドナルドで移民や難民の人たちによる講義を聴講する「マクドナルドラジオ大学」、難民のガイドのもとに東京観光のツアーを組む「東京修学旅行プロジェクト」など、「演劇とは何か」を問い、従来の演劇とは異なる形式で制作と発表を続けてきた高山さん。その背景にあるものとして、演劇を学んだ欧州で経験したひとつのエピソードを話してくれました。

「アテネのディオニュソス劇場を訪れたとき印象的だったのが、アクロポリスの丘の斜面から見下ろすかたちで円形舞台があり、客席から舞台の背景に広がるアテネの街が一望できたこと。そのとき、演劇は自分たちの街を見るための媒介であり、劇場は街の生活を考え直すための場所だったのだと気づきました。つまり舞台がなくても、人々が街や生活のことを見直す媒介がそこにあれば、それは僕にとっては演劇。その媒介はアプリでも成立するのです」(高山さん)

 
 昨今はコロナ禍を経て「劇場に集まらなくてもいい、バーチャルで観ればいい」という人も増えています。そのなかで、自分で行き先や時間を選び、密な空間に集まらずにプログラムを体験できる 『東京ヘテロトピア』は、家と劇場の中間にある“小さな演劇”であり、ポストコロナの新しい演劇のかたちとも言えるかもしれません。

「普段から東京に住んでいる人も、普段の通勤コースから少し離れて、その歴史や隠された物語に触れることで、身近な景色が新鮮に見えてくる――そういう“よりみちの経路”を開拓することで、人生や都市がもっと面白く豊かになる。そうやって近くのものを遠くに感じたり、逆に遠いものを近くに感じたりという「移動」の経験は、「ヘテロトピア」の大きなテーマでもあります。東京は世界から見ても、最も公共交通手段が発達している街。「移動」のインフラであるメトロを有効利用して、ぜひ東京を旅してみてください」(高山さん)

「東京へテロトピア」の企画・構成を担当する高山明さん

〈高山明〉
1969年生まれ。ドイツで演劇活動をした後帰国し、2003年より演劇ユニット「Port B」を主宰。13年にはPort都市リサーチセンターを設立。既存の演劇の枠組を超え、実際の都市を使ったインスタレーション、ツアー・パフォーマンス、教育プロジェクト、観光ツアーなど、現実の都市や社会に介入する活動を世界各地で展開している。活動は多岐に渡るが、いずれの活動においても「演劇とは何か」という問いが根底にあり、演劇の可能性を拡張し、社会に接続する方法を追求している。

■東京ヘテロトピア
企画・構成:高山明
執筆陣:管啓次郎、温又柔、木村友祐、小野正嗣、井鯉こま、陳又津、小林エリカ、飯岡幸子、 青柳菜摘
リサーチ・ディレクション:田中沙季
リサーチ:一般社団法人Port観光リサーチセンター

APPダウンロード
https://tokyo-heterotopia.portb.net/
・iOS version(JapaneseEnglish
・Android version(JapaneseEnglish

 

関連記事